
著者の経験背景
はじめまして。週末ハイカーとして15年、国内外の山を歩き続けてきました。登山道具への投資は数え切れないほどで、バックパックだけでも10本以上を購入・使用した経験があります。
本業はフリーランスのライターですが、取材や出張の合間に山へ入ることも多く、「登山ザックのまま街を歩く」という場面が珍しくありません。最初は登山用と街歩き用を別々に持っていましたが、荷物の多さと移動の煩雑さに嫌気が差し、「1つのバックパックで両方をこなせないか」という課題と向き合い始めました。
その試行錯誤の過程で、多くの失敗と小さな発見を積み重ねてきました。この記事では、その実体験をもとに、登山と街歩きを兼用するバックパックの選び方と注意点を具体的にお伝えします。
「兼用ザック」ニーズが高まる背景
近年、登山と観光や街歩きを組み合わせた「トレッキング+観光」スタイルの旅が増えています。
観光庁が公表している「訪日外客消費動向調査」および国内旅行に関する統計では、アウトドアアクティビティと都市観光を組み合わせた旅行形態が年々増加傾向にあることが示唆されています。また、日本山岳・スポーツクライミング協会が実施したアンケートでも、登山者の多くが山行前後に宿泊を伴う観光をしていることが報告されています。
総務省家計調査(2022年)では、スポーツ・アウトドア用品への支出が、コロナ禍を経て継続的に増加していることが読み取れます。特に30〜40代の勤労者世帯において、週末を活用したアウトドア活動への関心が高まっています。
こうした背景から、「登山ザックのまま空港や市街地を移動したい」「1泊2日の山旅でスーツケースは持ちたくない」というニーズが増えてきました。
登山専門店大手のmont-bell社やOSPREY社の国内販売動向でも、20〜35Lクラスの「街と山の兼用」を明示したバックパックのラインナップが拡充されており、メーカー側もこのニーズを明確に捉えていることがわかります。
ただし、「兼用」という言葉には落とし穴があります。登山に特化したザックと、街歩きに特化したリュックは、設計思想がまるで異なります。登山ザックは重心を高く保ち、腰で荷重を受けるように設計されていますが、街なかでヒップベルトを締めて歩くのは見た目にも不自然です。一方、街歩き向けのリュックは薄型でスリムなものが多く、重量物を長時間背負うと肩が痛くなります。
この根本的な設計の違いを理解したうえで、「どちらかに軸足を置きながら、もう一方の用途にも耐えられるか」という視点で選ぶことが、後悔しないバックパック選びの出発点になります。
容量については、20〜30Lが兼用として最も現実的なレンジです。これより小さいと登山装備が入らず、これより大きいと街歩きで浮いてしまいます。自分のユースケースを事前に整理しておくことが重要です。
最初の大失敗:「なんでも入る大きさ」という罠
最初に兼用ザックを探し始めたのは、登山歴3年目のことです。当時の私は「とにかく大きければ何でも入るはずだ」という考えで、45Lのバックパックを購入しました。
登山では確かに余裕があって便利でした。テント泊装備も問題なく収納できましたし、食料や水を多めに持っても背負い心地は悪くありませんでした。
ところが、山を下りて街に出た瞬間、状況は一変しました。45Lのザックを背負って電車に乗ると、ドア付近に立つだけで後ろの人に接触してしまいます。カフェに入ろうとしても、ザックを置く場所がなく、ずっと背負ったまま飲み物を飲む羽目になりました。コンビニのレジでは、振り返るたびに商品棚にぶつかりそうになり、店員さんに申し訳ない気持ちになりました。
山から直接、市街地の宿に向かうプランでしたが、ホテルのロビーを通るときも明らかに浮いた存在感で、フロントスタッフの視線が気になって仕方ありませんでした。
この経験から学んだのは、「街歩きにおける快適さは容量ではなく、コンパクトさと形状で決まる」ということです。登山後に電車移動や観光を想定するなら、ザックが人混みの中でどれだけ「存在感を消せるか」が重要な指標になります。
その後、容量は30L以下に絞り、背面長が短くコンパクトに見えるシルエットのものを探すようにしました。この失敗がなければ、容量だけで判断し続けていたと思います。
第二の失敗:「デザインだけで選んだ」ことへの後悔
容量問題を解決した後、今度はデザインを最優先にしたザックを購入しました。都会的なシルエットで、登山ブランドではなくアーバンアウトドア系のブランドのものです。カラーも落ち着いたオリーブグリーンで、街でも山でも映えると思っていました。
実際に低山ハイキングで使ってみると、すぐに問題が浮き彫りになりました。まず、腰ベルトがほぼ飾りに近い薄さで、1時間も歩くと肩に荷重が集中して痛くなりました。次に、サイドポケットが浅すぎてペットボトルがすぐ落ちます。歩くたびに「ポトッ」という音がして、そのたびに立ち止まって拾う羽目になりました。
さらに大きな誤算は、雨への備えがまったくなかったことです。山では天気が急変することは珍しくありません。レインカバーが付属していないのはまだしも、生地自体の撥水性がほぼゼロで、小雨でも30分ほどで中が濡れ始めました。カメラや財布を入れていたため、かなり焦った記憶があります。
この失敗から、「山で使うなら、機能は妥協してはいけない」という教訓を得ました。デザインはあくまでもプラスアルファの要素であり、まず登山としての機能要件を満たしているかを確認することが先決です。
具体的には、腰ベルトのパッドの厚みと幅、サイドポケットの深さと素材、ショルダーストラップの形状と長さの調整幅、そして撥水・防水加工の有無を最低限チェックするようにしました。これ以降、購入前に必ず実物を手に取って確認する習慣がつきました。
転機:ショルダーハーネスの重要性を体で学んだ日
登山歴8年目のこと、北アルプスの稜線を縦走する2泊3日の山行がありました。そのとき使っていたのは、機能面でもデザイン面でも「ようやく満足できた」と思っていた28Lのバックパックです。
1日目の午前中は快適でした。ところが昼を過ぎた頃から、右肩の付け根に違和感が出始めました。それが夕方には鈍い痛みに変わり、翌日の朝には肩甲骨の下まで痛みが広がっていました。
原因は「ショルダーハーネスのカーブが自分の体型に合っていなかった」ことでした。ハーネスには「S・M・L」などのサイズがありますが、私は何となく「M」を選んでいました。後日、専門店でフィッティングを受けたところ、背面長が短めの体型で、本来は「S」サイズのハーネスが合っているとわかりました。
さらに、ストラップの角度も重要で、肩の前側でストラップが鎖骨の外端から約3〜4cm内側に来る位置が理想とされています。それより外側にずれると、肩の筋肉に余計な負担がかかります。
この経験以来、バックパックを選ぶ際には必ず「試し背負い」を最低でも10分以上行うことにしています。荷物を入れた状態で、腰ベルトを締め、チェストストラップを調整し、歩き回ってみることで、ショールームでは気づかない問題が見えてきます。
街歩き兼用を考える場合でも、この「フィット感の確認」は絶対に省いてはいけないプロセスです。どんなに見た目が良くても、体に合わなければ長時間の山行も街歩きも苦痛になります。
ようやく見つけた「自分なりの正解」
さまざまな失敗を経て、登山歴10年目にようやく「これだ」と思えるバックパックに出会いました。容量25L、重量1.1kg、腰ベルトはしっかりしたパッド付き、背面にはエアメッシュの通気構造、そして外観はシンプルなモノトーンで街でも違和感がないものです。
このバックパックで試したのが、「長野・上高地〜松本市街」の組み合わせ旅でした。上高地のトレッキングを終えた後、そのまま松本城や市街地の古い街並みを歩くプランです。
結果は想定以上に快適でした。トレッキング中は腰ベルトをしっかり締めて使い、松本市街に入ってからは腰ベルトを収納ポケット(多くのザックに付いているファスナーポケットに腰ベルトを折り畳んで収納できる機能)に折り畳んで、スマートな見た目に変えることができました。
市街地での移動では電車や路線バスを使いましたが、25Lのコンパクトな形状のおかげで通路でも邪魔にならず、カフェでは足元に置いて問題ない大きさでした。
この経験から、「腰ベルトが収納できる構造かどうか」が兼用バックパックを選ぶ上での重要なチェックポイントになりました。ベルトが外に出っ張ったまま街を歩くと見た目が良くないだけでなく、乗り物の中で引っかかる原因にもなります。
もう一つ、このバックパックで気に入った点は「トップリッドが外せてウエストバッグになる」機能です。市街地観光中に貴重品だけを持ちたいときに、トップリッドを外してヒップバッグとして使えるため、大きなザックを宿に置いてくる必要がありませんでした。
失敗から学んだ、実践的な選び方のアドバイス
15年の試行錯誤をふまえ、登山と街歩きを兼ねるバックパックを選ぶ際に押さえておきたいポイントをまとめます。
容量は「20〜30L」に絞ること
この範囲が登山と街歩きの両立において現実的なバランスです。20L以下は日帰り登山でも装備が入りにくく、30L超えは街中での取り回しが難しくなります。
腰ベルトは「収納できるタイプ」を選ぶこと
登山中は腰ベルトをしっかり使い、街では折り畳んで隠せる構造が理想です。この機能があるかどうかで、街での見た目の印象が大きく変わります。
試し背負いは10分以上、荷物を入れた状態で
店頭で空のまま肩に乗せるだけでは不十分です。想定する荷物と同程度の重さ(5〜8kg程度)を入れて、実際に歩き回ることで体への適合が確認できます。
雨対策を必ず確認すること
レインカバー付属か、または生地に防水・撥水処理があるかを必ず確認します。山では天気が急変します。後から市販のレインカバーを買い足す方法もありますが、最初から対応していた方が手間が省けます。
外観は「登山感が強すぎない」デザインを選ぶこと
機能を満たした上で、なるべくシンプルなカラーリングと形状のものを選ぶと、都市部での移動時に浮きにくくなります。過度なメッシュポケットや蛍光色は、街中での視線が気になりやすいです。
よくある疑問にお答えします
Q. 登山用ザックと街歩き用リュックは本当に兼用できますか?
A. 「完全に同等」とはいきませんが、用途の優先順位を決めれば十分に兼用できます。「登山がメイン、街歩きはサブ」として考えるなら、登山機能を満たしたうえでデザインが街で浮かないものを選ぶのが合理的です。逆の優先順位なら、街向けのリュックに近い軽量タイプで、腰ベルトと背面パッドがしっかりしたものを探すことになります。どちらを主軸にするかを先に決めることが、選び方の出発点です。
Q. 容量25Lで1泊2日の登山はできますか?
A. 小屋泊であれば十分に対応できます。テント泊の場合は、テント・シュラフ・マット等のかさばる装備が必要になるため、25Lでは厳しいことがほとんどです。小屋泊主体で山と街を兼ねるスタイルなら、25〜28Lが最もバランスの取れた選択肢です。ただし荷物の詰め方と取捨選択の技術も重要で、慣れないうちは余裕を持って30L程度を検討するのも一つの方法です。
Q. 価格帯はどの程度を見ればよいですか?
A. 登山と街歩きの両立を考えるなら、機能面で一定のクオリティが必要なため、1万5千円〜3万円前後を目安にすることをおすすめします。それ以下の価格帯では腰ベルトのパッドが薄かったり、縫製の耐久性が低かったりする製品が増えます。長く使い続けることを考えると、初期投資として適正な価格帯のものを選んだ方が、長期的なコストパフォーマンスは高くなります。
まとめ
登山と街歩きを兼ねるバックパックは、「どちらにも完璧」を求めると必ず妥協が生まれます。大切なのは、自分のユースケースの優先順位をはっきりさせた上で、機能とデザインのバランスを取ることです。
私自身、10本以上のバックパックを試して失敗を重ねてきた末に、「容量25〜30L・腰ベルト収納可能・撥水加工あり・シンプルな外観」という自分なりの基準にたどり着きました。
この基準はあくまでも私の体型・用途・好みに基づくものです。皆さんにも、ぜひ実際に試し背負いをして、自分の体と使い方に合った一本を見つけてほしいと思います。失敗を恐れず、試してみることが最短の近道です。
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