登山歴10年が教える、登山と街歩きを両立するバックパック選びの真実

公開: 2026年6月23日更新: 2026年7月5日旅ガジェット番長・リョウ
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著者の経験背景

私が山を歩き始めたのは、就職して3年目の夏のことです。当時は仕事のストレスから逃げるように、友人に誘われて奥多摩の低山へ日帰りで出かけたのが最初でした。それ以来、毎年10〜15回のペースで山行を重ね、現在では北アルプスや南アルプスの縦走も経験するようになりました。

同時に、出張や海外旅行が多い仕事柄、バックパック一つで都市観光と山歩きを組み合わせる「トレッキング+街歩き」スタイルを長年試してきました。台湾・韓国・ネパールなど、登山口のある地域への旅では、荷物を一本化したいという欲求と、現実的な機能要件のはざまで何度も失敗を繰り返してきました。

この10年間で購入したバックパックは実に8本。手放したものも多く、正直、遠回りしてきたと感じています。その試行錯誤の記録を、同じ悩みを持つ方へ届けたいと思います。


目次

兼用バックパック市場の現状と登山人口の動向

近年、「ハイキング」や「ライトトレッキング」を楽しむ人口が国内で着実に増えています。公益財団法人日本山岳・スポーツクライミング協会の調査では、登山・ハイキング人口は国内で推計800万人前後とされており、特にコロナ禍以降、三密を避けられるアクティビティとして関心が高まりました。

また、観光庁が公表している訪日外国人消費動向調査や国内旅行消費額の統計を見ると、「アドベンチャーツーリズム」と呼ばれるアウトドア体験を組み込んだ旅行形態の需要が、2020年代に入ってから顕著に拡大しています。登山と観光地巡りを一つの旅行にまとめる「マルチアクティビティ旅行」は、特に30〜40代の働く世代に支持されている傾向が読み取れます。

こうした流れを受けて、バックパック市場でも「オールラウンド対応」を謳う製品が増えています。総務省家計調査のレジャー・スポーツ用品の消費データを参照すると、アウトドア関連品への支出は2019年以降に右肩上がりとなっており、なかでも「用途を絞らない多機能型バッグ」への支出が拡大しているとみられます。

ここで問題になるのが、「兼用」という言葉の曖昧さです。メーカーが「タウン&トレイル対応」と記載していても、その実態は大きく異なります。容量・背面パッド構造・ストラップの可動域・防水性・収納ポケットの設計など、登山と街歩きでは求める要素がほぼ正反対になる場面があります。

たとえば登山では、重量物を背骨に近い位置に集中させる「重心コントロール」が重要です。一方、街歩きでは取り出しやすさと外観のスマートさが優先されます。こうした相反する要素を一つのバッグに統合しようとする試みは、どこかで妥協を生じさせます。その妥協点をどこに置くか、それが選択の本質です。

市場には20L〜40L前後の製品が林立していますが、実際に山と街の両方で使い続けた経験から言えば、容量・素材・構造の3点における優先順位の整理なくして、満足のいく選択はできません。以下の体験エピソードでは、その判断基準がどのように形成されてきたかを詳しく説明します。


最初の失敗:登山用バッグを街へ持ち込んだ後悔

初めて「兼用しよう」と考えたのは、登山を始めて2年目のことです。当時メインで使っていたのは容量30Lのトレッキング専用バッグ。ヒップベルトと胸部ストラップが充実した、いかにも登山家然としたデザインでした。

そのバッグを携えて、週末に富士五湖エリアへ出かけました。土曜日に登山、日曜日に河口湖周辺を観光するという行程でした。登山中の使用感は申し分なく、30Lの容量で雨具・食料・着替えもしっかり収まりました。

問題は翌日の街歩きでした。おみやげを少し買い足しただけで外側ポケットが膨らみ、見た目がまとまらなくなりました。カフェに入るたびに、ヒップベルトを外して壁際に置く手間が発生し、席の狭い店では周囲に迷惑をかける場面もありました。何より、ショッピングモールで鏡に映った自分の姿を見て「場違い感」を強く感じたのを今でも覚えています。

登山ギアはアウトドアフィールドで輝くように設計されているのだと、この経験で痛感しました。特に、ヒップベルトは登山では必須ですが、街なかでは着用したままの移動に向いていません。脱着が面倒で、外したベルトが腰の両側にだらりと垂れる見た目も気になりました。

この失敗から「登山用バッグをそのまま街に持ち込む」という選択肢は、私の中で消えました。では逆に、街用バッグを山へ持ち込んだらどうなるか。次の経験がその答えでした。


逆の失敗:タウン用バッグで低山に入った苦い記憶

登山バッグの街歩きへの転用に懲りた翌年、今度は「スタイリッシュなデイパックで低山なら大丈夫だろう」と楽観的に考えました。普段使いしていた25Lのシンプルなナイロンバッグを持って、奥武蔵のハイキングコースへ向かいました。

標高差は500m以下、往復4時間程度の行程です。荷物は雨具・水2L・行動食・着替えの薄手一枚。これなら十分だと思いました。

ところが、山行を始めて1時間も経つと肩への負担が顕著になってきました。背面パッドがほぼなく、ショルダーストラップも細いため、荷重が肩の一点に集中していたのです。胸部ストラップもなく、下り坂ではバッグが前へ揺れて体幹バランスを乱しました。

さらに困ったのが、雨具へのアクセスです。途中で曇りが強まり、雨具を取り出そうとしたのですが、タウンバッグの構造はメインルーム一室で、レイン用品が一番奥に沈んでいました。荷物を全部出して取り出すはめになり、登山道の脇でしゃがみ込む羽目になりました。

「緊急アクセスのしやすさ」が登山バッグには設計として組み込まれているのだと、この経験で初めて理解しました。雨具・応急用品・行動食がすぐ取り出せる構造は、快適性だけでなく安全性の問題です。タウンバッグをそのまま山へ持ち込むことは、低山であっても一定の不便とリスクを伴うと学びました。


転機となったバッグとの出会い:構造理解が深まった瞬間

2度の失敗を経て、私は「兼用」の意味を真剣に考えるようになりました。3本目に購入したのは、アウトドアブランドが「デイハイク&トラベル」向けに設計した28Lのバッグでした。価格は2万円台後半で、当時の私には少し奮発した買い物でした。

このバッグの何が違ったかというと、ヒップベルトが収納式だったことです。不使用時にはベルトをバッグ背面のジッパーポケットに収納でき、街なかでは完全にフラットな背面として機能しました。背面パッドは取り外し可能で、山では装着、街では薄くして収納効率を上げることができました。

また、左右のサイドポケットに加えて、前面に縦型のオーガナイザーポケットがあり、財布・パスポート・ケーブル類を整理できました。これは山では使わない機能ですが、街ではこの一ポケットがあるだけで快適さが段違いでした。

はじめてこのバッグを持って奥多摩から東京の街中に流れ込んだとき、「移行のストレスがない」という感覚を味わいました。山ではストラップをフルに活用し、街ではコンパクトに見えるよう設定を切り替える。この「切り替えられる設計」こそが兼用バッグの本質だと、ようやく腑に落ちた瞬間でした。


容量と素材の選び方:3つの旅行で気づいたこと

転機となったバッグを使い続ける中で、次に悩んだのが「容量」でした。国内の日帰り登山では28Lで十分でしたが、1泊2日の旅行に登山を組み合わせると容量が不足しました。荷物を圧縮しようと工夫しても、着替え・山道具・旅行小物を一つに収めるのは難しく感じていました。

そこで試したのが「衣類の圧縮」でした。旅行用の圧縮袋を取り入れ、Tシャツやインナーをできる限り薄くたたんで収納する方法です。手押しタイプの圧縮袋であれば、ポンプ不要で空気を押し出せるため、山の中でも使い勝手がよく、繰り返し使用できる点も助かりました。衣類の体積を半分以下に抑えることができ、28Lのバッグで1泊2日の山+街行程をこなせるようになりました。

素材についても学びがありました。街歩き目線では「見た目がスマートな素材」、登山目線では「耐水性・耐摩耗性のある素材」が理想です。コーデュラナイロンやリップストップ素材は両方の要件を比較的満たしており、長く使える実用性があります。一方、キャンバス素材はおしゃれに見えますが、雨中の山行では重くなり乾きにくいため、兼用には向かないと感じました。

台湾の九份を観光した翌日に基隆の山道をトレッキングした旅では、この経験がすべて活きました。観光地では街バッグ風に、翌日は山仕様に、同じバッグで対応できたとき、「選択の正解」にたどり着いた手応えを感じました。


ネパール旅行での実戦投入:海外での兼用バッグの限界と発見

登山と街歩きの兼用という観点で、最も過酷な試験となったのがネパールへの旅でした。カトマンズ市内観光3日間とアンナプルナ山域での3泊4日トレッキングを組み合わせた行程で、荷物はバックパック1本に絞ることにしていました。

カトマンズ滞在中は、バザールや寺院を歩き回るため、軽快に動ける必要があります。一方、山域では標高3,000m以上を歩くため、防寒着・雨具・医薬品が欠かせません。これらをすべて一本のバッグに収めるのは、かなりの挑戦でした。

まず直面したのは、防犯の問題です。登山向けの構造は背面アクセスが多く、正面からファスナーを開けられにくい設計のものもありますが、カトマンズの混雑したエリアでは前面ポケットに財布を入れる習慣が仇となりました。スリに遭ったわけではありませんが、リスクを強く意識しました。街用の前面アクセス構造は防犯上の弱点になりうると気づきました。

次に、容量の問題です。山域での宿泊を考えると35L以上欲しいと感じましたが、カトマンズの市街では大きいバッグが体への負担になりました。この旅では結局「メインの35Lバッグ+折り畳み式の10Lサブバッグ」という二段構えで対応しました。

完全な兼用の限界を海外で味わったことは、かえって整理になりました。「一本化できる範囲」と「二本使い分けるべき場面」を明確に理解したからです。日帰り〜1泊2日の国内行程であれば兼用は十分機能します。ただし2泊以上かつ海外の場合、サブバッグの併用が現実的な解答です。


読者へのアドバイス:バッグ選びで後悔しないための考え方

10年の試行錯誤を経て整理した、兼用バッグ選びの判断軸をお伝えします。

まず容量は「主となる用途」で決めることが基本です。登山が主なら30L前後、旅行が主で山は付随するなら25L以下でも工夫次第でまかなえます。衣類圧縮袋を活用すれば、見かけ以上の収納力を引き出せます。

次に、ヒップベルトの形状を必ず確認してください。収納式または脱着式のヒップベルトを選ぶことで、街歩きでのストレスが大幅に減ります。固定式のヒップベルトがついたバッグは、どんなに機能が良くても街での使い勝手が悪くなります。

背面パッドの有無も重要です。完全に取り外せるタイプであれば、街ではパッドを抜いてPCを入れるスリーブとして転用できるものもあります。ただし、取り外した状態で山に持ち込むと、長距離では腰への負担が増します。

素材は「撥水加工のナイロン系」を軸にしてください。山での雨・泥への耐性と、街でのスマートな見た目を両立しやすいのはナイロン系素材です。雨天時にはレインカバーを別途携行すると、さらに安心です。

最後に、試着に時間をかけることを強くお勧めします。カタログスペックでは見えないフィット感・重心位置・ストラップの調整幅は、実際に肩に乗せてみないと分かりません。荷物を入れた状態での試着が理想です。


よくある疑問

Q1. ヒップベルトなしで登山できますか?

日帰りの低山・ハイキングであれば、荷物が10kg未満の場合はヒップベルトなしでも対応できます。ただし、標高差が大きい山行や、2kg以上の水・食料を携行する場合は、肩への負担が累積して疲労につながります。兼用バッグに収納式ヒップベルトがついていれば、山では装着・街では収納と使い分けができます。

Q2. 28Lと35L、どちらが兼用向きですか?

用途の「主軸」によって異なります。街歩きや日帰りハイキングが中心なら28Lで十分です。1泊以上の山行や、旅行との組み合わせが多い場合は35Lの方が余裕をもって使えます。ただし35Lは機内持ち込みサイズを超えることがあるため、航空機を使う旅では注意が必要です。衣類圧縮袋を使えば、28Lでも1泊分の荷物をうまく収めることができます。

Q3. 防水性はどこまで必要ですか?

バッグ本体に完全防水を求めるのは現実的ではありません。生地の撥水加工は、小雨程度であれば十分な効果を発揮します。本格的な雨天や沢沿いのルートでは、別途レインカバーを携行するのが合理的な対応です。精密機器・貴重品は防水性の高いジップロック袋やドライサックに入れておくと、さらに安心して行動できます。


まとめ

登山と街歩きを一つのバッグで兼ねることは、正しい製品選択と使い方の工夫によって十分に実現できます。ただし「どんな場面でも完璧」なバッグは存在しません。大切なのは、自分の旅のスタイルと行程の特性を踏まえたうえで、妥協点を自分で選択することです。

ヒップベルトの可変性・背面パッドの脱着・素材の耐水性、この3点を軸に候補を絞り、必ず実物を試着して判断してください。衣類圧縮袋などの周辺アイテムを組み合わせることで、容量の不足を補うことも可能です。

10年間の失敗と学びが、バッグ選びに迷う誰かの時間を少しでも節約できるなら、それ以上の喜びはありません。山と街、どちらの景色も一つのバッグと歩いていける旅を、ぜひ実現してみてください。

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この記事を書いた人

旅ガジェット番長・リョウ
旅ガジェット番長・リョウ

年間50回超えのフライトで空港を自分の庭と呼ぶトラベラー。「このスーツケース預け入れたら傷つくよ」と教えてくれる空港スタッフとは顔なじみ。旅先での楽しみより「次の旅で何グッズを試すか」を考えている時間の方が長い。荷物は常に機内持ち込みサイズ以内に収める主義。

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この記事を書いた人

年間50回超えのフライトで空港を自分の庭と呼ぶトラベラー。「このスーツケース預け入れたら傷つくよ」と教えてくれる空港スタッフとは顔なじみ。旅先での楽しみより「次の旅で何グッズを試すか」を考えている時間の方が長い。荷物は常に機内持ち込みサイズ以内に収める主義。

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